「転入初日に掃除当番なんてツイてないね〜」
「ま、ね……。別に、良いけどさ……」
話しながら階段を降りていくと、奥の角から先生が姿を現わした。
「げ」
タケルが顰め面をする。こっそりと武人に囁いた。
「あいつ、保体の引田。めっちゃ嫌な奴でさぁ……」
「おい、安藤」
タケルの言葉は引田本人に遮られる。タケルは姿勢を正して立ち止まった。
「はい〜〜〜?」
「お前、この前出したあのレポート……ありゃ何だ」
「え?何すか」
「いーからちょっと、体育教官室に来い」
「ひいいいい……」
引田がタケルの腕を掴む。そんな泣きそうな顔をされても、それこそ転入初日の転校生に何の助けを期待すると言うのか。
「いやーでもセンセー。俺、掃除当番だしー。こいつ、転入してきたばっかで焼却炉の場所わかんないしー……」
しかし引田は聞く耳を持たない。ちらりと武人に目を向けた。
「ああ、お前が方宮か。ゴミ箱くらい1人で持てるな。焼却炉はそこの角を曲がったところだ」
「ああ、はい」
「方宮くうううううん」
ひらりとタケルに手を振る武人に、タケルが絶望的な眼差しを送った。
「んじゃ行くぞ。安藤」
「ひえええ」
ずるずると引き摺られていくタケルを見送って、言われた通りに角を曲がる。廊下の先には開け放されたドアがあり、その先は中庭に続いていた。焼却炉までは渡り廊下で続いている。蓋を開けてざかざかとゴミ箱の中身を空けると微かに中から灰が舞い上がった。
蓋を閉めて引き返そうとすると、焼却炉の、武人のいる位置からは死角になるような陰でカサカサと音がする。
「?」
土足はまずいだろうかと思いながら、中庭に下りてみる。そちらをひょこんと覗き込むと、女の子がしゃがみこんでいた。
「あー……」
(煙草……)
彼女の小さな指に挟まれているのは、煙草だった。黙々と白い煙が上がっている。
「……何見てんだよ」
制服の上に着たジャージの裾を引っ張りながら、睨みつけてくるが、武人はしらっとした顔で忠告した。
「あんた、こんなトコで煙草吸ってたら見つかるんじゃないのか」
半ば呆れながら言うと、少女は「別に」と言って煙草を揉み消した。それから武人をじろじろと見る。
「あんた?Cクラスに転入して来たのって」
「そうだけど。あんた誰」
「別にカンケーないじゃん」
じゃああんたも聞くなよと思うのは間違いなのだろうか。
いわゆる不良少女とでも言うのだろうか。仲間とつるんでいないところを見ると、古い言い方をすれば一匹狼タイプのようだ。
「とっとと行けよ。バレんじゃねーか」
「ならさっさと帰れば」
言いながらゴミ箱を持って再び廊下へと引き返す。階段を上りかけたところでタケルがちょうど教官室から出て来た。武人の姿を認め、たかたかと駆け寄ってくる。
「あーったく。参ったよもう……。悪いな、ゴミ捨て」
「別に良いけど。何やったんだよ」
「やー、水泳についてレポート用紙2枚書けって言うからさー、教科書丸写しにしたらばれた」
「そりゃばれるだろ」
|
|