□■Still I'm With You ex20■□
 「長谷川さーん。頼んどいたコピー、出来てるー?」
 総務部管理課のカウンターに、同じ会社の営業部の藤堂さんが立った。呼ばれたわたしは頼まれていたコピーを持って行く。
「10部でいーんですよね」
「ありがと、助かるよ。お礼に今日メシでもどう?」
「このくらいでお礼してたら、藤堂さん破産しちゃいますよ」
「相変らずツレないな〜」
 苦笑しながら藤堂さんが立ち去ると、わたしはデスクに戻って電卓を叩き始めた。
 藤堂さんは28歳ですらっと背も高いバリバリの営業マンだ。爽やかで優しくて女の子の人気も結構高いらしい。そんな彼にこうして口説かれるのは悪い気はしないけど、好みじゃないんだからしょーがない。
 確かに、素敵だとは思う。惹かれるものはある。でも、疲れちゃいそう。それに……。
 そんなこんなで、結局断り続けてもう半年。良く懲りないとは思うけど。
(……)
 何だかぼーっとしながら仕事を終えて、会社を出ると後ろから同期の彩子が追いかけて来た。
「詩穂ッ。待ってってば」
「あ、お疲れ」
「お疲れって……。さっきから呼んでるのに」
「ごめん、気がつかなかった」
 ふてくされた顔で並ぶ彩子に謝ると、彩子は歩きながら手帳を取り出した。
「ね、詩穂さあ、クリスマスはトキちゃん?」
 あっさりとした問いかけに、言葉に詰まる。トキちゃんと言うのは木高時夫―多分、わたしの彼氏。藤堂さんに応じられない最大の理由だ。
 トキオは定職にもつかず、ふらふらしているような奴で、わたしの部屋に半分住み着いている。でも、帰る部屋もないくせにウチに帰らない日はドコで夜を明かしたのかも言わずにシャンプーの香りを漂わせて帰って来る。でも……何も聞けない。
「さぁね……」
 何でもないように答えた。考えてるとキリがない。彩子は少し眉を顰める。
「……藤堂さんにすれば良いのに」
「……何でよ」
「だってさぁ、ダメだよ、トキちゃんは。はっきり言って。わかってんでしょ」
「……」
「確かにトキちゃんはかっこいーよ。でも女泣かせて平気な、サイテーな男だよ」
「……別にわたし、泣いてないもん」
 精一杯の反論は、かなり弱々しいものになった。
「だからさ、たまには詩穂がすっぽかしなよ」
「はぁ?」
「いつでも詩穂があの部屋で待ってるから、トキちゃんも安心しちゃうんだよ。だからさ」
 彩子は手帳からチケットを2枚取り出した。
「クリスマス、これ、行こうよ」
「何これ」
「ライブのチケット」
「はぁ?何の?わたし、音楽なんか全然わかんないよ?」
「ま、ま、そう言わず。絶対楽しいから」
「だから何のライブよ」
 仕方なくチケットを受け取ってひらひらと振る。
「インディーズレーベルのクリスマスイベントだよ。いくつかのバンドがね、対バンで出てて。わたしの友達の彼氏が出るからさ。だから……誰か紹介してもらおうかと思って」
「あっきれた」
「いーじゃないのよー。ね。付き合ってよ」
 紹介、か。
 チケットを透かすようにまたひらひらと振る。
 わたしにも何か、出会いがあればいーのにね……。