「こーおーへーえーッ」
自分のステージを終えた後、まだ楽屋で後片付けをしているバンドのメンバーを置いて、浩平は一人先に客席へと戻ってきた。適当に空いている席を探して座ると、不意に背後から何者かが体当たりしてきた。
「鈴……痛いよ……」
「今日はなんかやたらギターの音がかっとんでたねー。何かあったのかなあ?」
クラスメートの鈴だ。小柄で人懐っこくて、メンバーではないけれど、メンバーにもやたらと可愛がられている。
「……べっつに……」
実際、何があったわけでもない。浩平が気にすることでもない。……ないのだが。
「鈴、酒」
「ええ?」
「持ってきてよ、適当に」
仕方ないなぁ、とぶつぶつ言いながらも、人の良い鈴は言われたとおりドリンクカウンターへ向けて歩き出す。ステージ上では転換が終わったらしく、次のバンドの連中が楽器の音を調整していた。
「おっす、浩平」
それを見るともなしに見ながら、思わずため息をついていると、ぽんっと肩を叩かれた。
「未紅さん……来てたんだ」
「来ましたよぉ。やたらかっこ良かったじゃないの。あたしの前に立ってた女の子、浩平のファンみたいだったわよ。やるじゃない」
形の良い唇が、きゅっと上がる。特上の笑顔。まだあどけなさを残した顔をして背伸びしていた少女は、オトナの色香が加わって最高に綺麗で可愛くなった。唇をじっと見つめていた自分に気がついて、浩平は慌てて視線をそらしながらごまかすように言った。
「別に……。それより『新居』はどうなんだよ」
「別にってことないでしょ、自慢の弟なのに」
胸がずきっと痛む。
「……別にホントに弟ってわけじゃないだろ」
傷つくんだからさ、そういうこと冗談でも言われるとさ……しかも絶対冗談じゃないしさ。あんまりいたいけな高校生を無邪気に痛めつけるのはやめてほしい。
そう思いながら密かにねめつけると、未紅はけろっとした顔で言った。
「気持ちの中ではホントに弟よ。……新居?」
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