「とりあえず、今週武司がバイトなんだろ。それと、俺は平気なんだけど友也も休日出勤入ってて」
「何?休日出勤って」
「……休みの日に出勤するという……」
んなこたぁわかってんだよ。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……張り合うなよ」
「ばれた?……ま、それはともかく、友也の配属された広告宣伝部がさ、今度何かのイベントに参加するらしくて。そのメンバーに友也が入ってるらしいんだよね」
「ふうん」
「だからま、とりあえずアタシとデートしましょッ」
「……誰と誰が」
「俺様とアナタ様が」
「……」
ため息をついて受話器を置こうとすると、遠野が遠くで「切るなーーーーッ」と叫ぶのが聞こえた。ばれている。仕方なく受話器を耳元に戻した。
「……そうだな。スタジオとか楽器屋とか、ちょっとあちこち様子も見たいし」
「うん。じゃあまた電話するよ。……ほら、ウチってお前んトコと違って各部屋に電話があるわけじゃないじゃん?玄関のとこに共同であるから、あんまりしゃべってもらんないし。だからさ、まあ打ち合わせがてら外でゆっくりミーティングしようぜ」
「ああ……じゃな。近藤にもよろしく」
「あいよ。んじゃねー」
結局言い切った通り近藤とは一度たりとも替わらずに受話器を置いた。シャワーを浴びたらしい佐藤が、バスタオルで頭をわしわしこすりながら冷蔵庫を漁っている。
「何?友達?」
「うん。バンド仲間」
「ああ」
俺の荷物の中には当然ギターも入っているので、同室の佐藤は俺がギターを弾くことは知っている。けれど俺が弾いているところは一度も見たことがない。ゆっくり触っていられる時間がないので、ほとんど飾り物のような状態になっている。加えて、実家だったこれまでと違って、部屋でアンプつないでギターかき鳴らすわけにもいかない。
「バンドかあ……。俺も高校の時やってたんだよ」
ぽつりと呟かれた佐藤の言葉が意外で、俺は目を丸くしてシャツのボタンを外していた手を止めた。
「へえ……何やってたの?」
「ん?俺もギターだよ。俺が持ってたのはIbaneseの安い奴。上手くはなかったけどさ、楽しかったよ。文化祭の前とかにみんなでスタジオ行ったりして」
「コピー?」
「オリジナルやるほど真面目に続けなかったからね。ずっとjusticeのコピーやってた」
佐藤は最近あまり名前を聞かなくなった男性3人組の、少し前まで大人気だったロックバンドを挙げた。
「……続けてんだなあ、如月は」
「ん……まあ」
今は時間が全然とれないでいるけれど。元々続けるために東京に来たのだ。そう思いながら曖昧に頷くと、佐藤は少し切ない目をした。
「如月ってオトナっぽいから忘れてたけど……若いんだよな」
「は?」
再びシャツのボタンに手を掛けながら眉根を寄せる。
「19歳だろ?まだ18歳?」
「まだ18歳」
俺の言葉に佐藤は深々とため息をつく。
「じゅうはちッ。じゅうはちかあああ……。若いよなあ……まだ、何でも出来るよなあ……」
佐藤の言葉は何か違和感を感じた。確かに俺は18歳で佐藤より若いことは認める。佐藤は確か一浪しているはずだから、今年で23歳になるはずだ。俺はまだ23歳になったことがないのでわからないが、そんなふうに感じるものだろうか。そんな、既に何かを諦めているように。
「別に、佐藤だってまだ若いんじゃん?まだ、何でも出来るんじゃないの?」
「……そう言えるお前が羨ましいよ。そんなふうに思ってたことが俺にもあった。……もう遅いことだって、たくさんあるさ」
俺から目をそらして軽く肩を竦めた佐藤はそんなふうに言った。それから俺に作ったような笑顔を向ける。
「シャワー、浴びてきたら?」
「ああ……うん」
半裸のような状態のまま座り込んでいた俺は頷きながら、釈然としないものを胸に抱えていた。俺は、彼の年齢になった時、何を思っているだろうか。俺も、何かを諦めているだろうか。
そんなふうに、諦めたように自分の年齢を語りたくない。……そう、思った。
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