「あ、そう。和希は?ここ来んの?」
「来る。……そろそろ来るんじゃないの?4時頃に授業が終わってそれから来るって」
ふうん?まあ大学生って言ってもまだ1年生だし。それなりに授業もあるんだろう。
「ええと……武人、くん?」
「あ、武人でいーですよ」
「んじゃ武人。いくつだっけ?」
「13です。中1」
13!?すげぇッ……。5年前だよ、中1なんて若いなぁ……。
「ま、ほら。5コくらいの年の差、どうってことないっしょ?」
「まぁねぇ……」
一矢イチオシなんだし、年齢差が気にならないくらいの実力があるんだろう……きっと……。それにまぁ、元々武人の為に結成するバンドではあるんだし……多分。一矢が遊んでるだけって気もするけど。
「あー、いたいた。ごめんね、遅くなって」
そこへ、それなりに急いで来たらしい和希が顔を出した。さらさらの黒髪を横分けにして前髪には赤くメッシュが入っている。切れ長の瞳がクールな印象を与えて、悔しいけれど男の俺から見てもかっこいい。
「啓一郎。久しぶりじゃん。元気だった?」
「ああ、うん。……和希、ギターは?」
和希はギターを持っていなかった。手に持っているのはクリアケースだけ。ギターケースを肩に引っ掛けている姿を見慣れている俺にすれば、何だか大層すっきりしましたねと言うカンジ。俺の質問に、和希は自分の肩にちらっと目をやってへらっと笑った。
「置いてきちゃった。今日ってちょっと授業の移動大変でさ……欲しかった?」
「まあ、顔合わせだけ出来れば良いんじゃない。今日のところは」
「そう?そう言えば啓一郎、ヴォーカルやるんだって?」
「……なぜかね」
「いいじゃん。……あ、でも俺、啓一郎とツインギターって結構楽しかったんだけどな……」
俺は比較されるばっかりであんまり楽しい思いしてませんでしたけど。
和希の言葉に一矢が悪ノリしたようににやにやと笑った。
「だってさ。じゃあ啓一郎、サイドギターもやる?」
「……悪いけど、歌いながら弾くなんて器用な真似、俺のウデじゃ出来ない」
「ちいッ」
何が『ちいッ』だ。他人事だと思いやがって。
深々とため息をついている俺をよそに、武人と和希が挨拶大会を始めた。クールそうな割に人懐っこい和希に、武人は好印象を抱いた様子だ。
「で?方針としてはどんな方向でやるつもりなわけ?メンバーはこれで全部?」
一通り顔合わせも済んだので……と、言うか、武人以外はそもそも旧知の人間で紹介の必要も全くないんで、とりあえず話をまとめてみる。一矢は床の上に直接顎をかいてその上に頬杖をつきながらぼやくように口を開いた。
「実はさぁ、キーボード欲しいなとは思ってるんだけどね……。探さなきゃなんないんだけど」
あー……そう言えば、キーボードのいるバンドって組んだことないなぁ。
「いいね。キーボードいると音に幅が出るし出来ること増えるし」
和希も嬉しそうに頷く。
「誰かいない?やれそうな人。あいにく俺の知り合いではいないんだよなぁ〜。和希とかいそうじゃん。啓一郎とかさ」
思わず和希と顔を見合わせると、和希は眉根を微かに顰めて肩を竦めた。
「俺の知ってる鍵盤屋さんはみんな売約済み」
その言葉を聞きながら、心のどこかで何かが引っ掛かる。
……誰か、いたような気がする。頭の片隅に、引っ掛かっている誰か。
俺がぼんやりと記憶を探っている間に、話は勝手に進行し、しかも勝手に終わっていた。
「んじゃそういうことで、各自心当たりを探してみましょーってことで、おしまい」
「……」
……誰、だっけ……。
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