□■Fairy Tale ex11■□
「迷惑なくらい元気だよ」
 そっけなく言うと、亮はにやりと笑った。
「ラブラブ?」
「誰が?」
 こいつは何か勘違いしている、と彗介はため息をついて思った。
「……なあ。俺とまりんって何なんだろうな」
 そんな言葉を吐き出しつつ窓の外に目をやる。亮はそんな彗介をきょとんと見つめてコーヒーを口に運んだ。
「何って……彼氏彼女、ってやつじゃないの」
「違うっつーに」
「じゃあ……セフ……」
 言い終わらないうちに彗介は黙って亮の頭を殴りつけた。こんなところでそんなことを言ってくれるな、と思う。大体そういう間柄ではないのだから。
「悪いけどそういう関係じゃない」
 亮は彗介に頭を叩かれたことよりもその返答に目を丸くした。
「ええええええええ!?まだ!?」
「まだも何もする予定がないの」
「うそおおおおお」
 信じられないわこのヒト、と亮は彗介を凝視した。
「本当だってば」
「……キスも?」
 詳細を突っ込まれて一瞬返答に詰まる。
「それは……寝てる時に一度だけ」
「そんな昔の少女漫画じゃないんだからさ……。そんで?そこでやめたの?同じ屋根の下にいて?……ホントに男?ケイちゃん……」
「俺が女に見えたことがあるのか?お前には」
「ない。あるわけない」
 きっぱり言う亮に、彗介は俺はあるけどなと小さく呟いた。
「え!?俺!?いつ!?」
「中1の時の文化祭」
 その言葉に今度は亮が物も言わずに彗介の頭を叩いた。
「あれは女装させられたんでしょ、部活の先輩にッ」
 それからストイックねー、と亮は呟いた。ストローをくわえたまま天井を睨んで彗介は唸る。ストイック、というのとは違うような気がした。
「なんつーのかな……何か妙に神聖なイメージみたいなのがあって……そういうことするに出来ないって言うか。手を出したらいけないような……俺の中のイメージが邪魔する……んだよね」
 うまく言えない気がしてぼそぼそと低い声になる。亮はああ成る程ねと妙に納得したように頷いた。
「俺なんか尚香が部屋に来てその日だもんねー」
「ケダモノ」
 あきれ返って呟くと、亮は悪びれた様子もなく踏ん反り返って、ワタシを敬うが良いなどと笑った。何が……と思いつつ尋ねる。
「その尚香ちゃんとやらが威勢の良い彼女か」
「そう。2つも年下の癖に俺様を敬わない……」
「何でお前を敬う必要がある……?」
 何だかそんな亮の態度が可笑しかった。これまで付き合ってきた誰に対してもそんな明け透けな態度はとらなかったように思う。わざとけなしたりからかったりするような亮ではなかったのだ。
「どんなコ?」
「変な女」
「実家なんだっけ。ドコ住んでるの」
「渋谷」
 地方から出てきた彗介にとってみれば東京に実家があるだけで意味もなく「凄ぇ」と思ってしまう。渋谷などと言われてしまうと何者だ?と問いたくなってしまった。
「・・・金持ち?」
「いんやー。フツーのお家よ。昔からの住宅地みたいになってるとこがあってさ。ばーさんの代からそこに家があるとかで」
「へえ」 
 亮は残っていたコーヒーを飲み干して、にやりと笑った。
「ま、今度会わせてやっからさ。楽しみに待ってろって」
 それから彗介の瞳を覗き込むようにして続ける。黒目がちの、少し神秘的とも言える瞳。
「……お前がどう思ってるかなんじゃないの結局は」
「は?何が」
「さっきの。お前とまりんちゃん。関係がどーとかこーとかって前に、おまえ自身が彼女をどう思ってるかが重要なんじゃないですか」
「……」
 俺自身がまりんをどう思っているか。
 考えたこともなかった問いを突きつけられて、彗介は沈黙した。
「好きでもない女と一緒に暮らせるほど、器用じゃなかったと思うけどな。俺の知ってるケイちゃんは」
「……」
 思いの外、深い言葉だった。