「置いとけよそのまんま。トレイ出てなきゃまだ中で食ってると思うだろ」
「あ、なるほど。さすが悪の帝王」
「……この程度、頭働かせろよ」
俺たちはそっと外へ体を滑らせた。廊下は静かだ。ヘリのプロペラの音しかしない。って言うか、そっちがうるさすぎる。静かと言うには無理のある爆音だよなぁ。
「こっち行ってみよう」
ドアを出て廊下を右手に進んで行くと、何か話し声がして前方から誰かが来る気配がした。
「おい、やべえって」
慌ててそばにあったカーテンをめくって中に飛び込む。どうやらそこは清掃用具置き場のようだ。モップの芳しい香りが鼻腔を刺激して、俺たち3人は悶死しそうになった。
「……くせぇ」
「しッ……。……声が近い」
この清掃用具置き場の壁は凄く薄いらしい。壁を隔てて向こう、廊下の反対の部屋から女の声がする。相手の声がしないと言うことは、どうやら無線らしい。
「……ではよろしいのですね。ザクロ ヒロトで間違いないと」
……俺?
カイとヒゴが黙ったままこちらを見る。俺は何も知らないと言う意味をこめて眼一杯ぶるんぶるんと首を横に振った。俺のせいにされちゃあたまらん。女の声はまだ、続いていた。
「他の2人はいかが致しますか。……知ってる恐れも皆無ではないかと」
カイとヒゴは顔を見合わせた。……何を知ってるって?
「……ええ。わかりました。とにかく、ザクロ ヒロト、カイ トモヤ、ヒゴエ タケシの3名をセタガヤベースに護送します。その後のことはお任せしますわ。口封じに沈めるなり何なりと大佐のお好きなように」
待てぇぇぇぇいッ。
「……時に、ヒジリ様の方は。……ええ。……そうですか。結構ですわ。……失礼します」
やがて隣の部屋は静かになった。出て行ったようだ。俺たちは身動きが取れずに固まったままだった。けどいつまでもここにいるわけにはいかないと言うかそれはヤバイだろうってことでで、再びそっと廊下に出ると一目散に部屋に駆け戻る。ドアを閉めると俺たちはようやく力を抜いて床にへたり込んだ。
途端、俺が寄り掛かっていたドアががんがんとノックされる振動が背中を伝わった。うわああああ。びっくりしたなああ。心臓がばくばくしてるじゃねーかッ。
「ははははいッ」
慌てて返事をするとドアが勢い良く開いて俺の背中に改心の一撃を与えた。ぐおおお……。
「ううう……」
「何だ。そんなところで何をしている」
「……寄りかかってただけじゃないすか〜……」
現われたジェシカは俺を見て目を丸くした。俺はずるずるとドアを離れる。
「食事は終わったのか。トレイを外に出せと言っただろう」
「……すみませぇ〜ん……」
のそのそと食器をまとめてトレイをジェシカに渡すと、ジェシカは口元だけふっと笑って出て行きながら言った。
「まあ、大人しくしているんだな」
ドアが閉まったことを確認するとヒゴがぼそっと口を開く。
「……ジェシカ、だったよな……?」
「……多分な」
「何の話だったんだ……?」
「……」
3人で顔を見合わせる。不穏な空気しか流れて来なかった。俺たちがこっちに乗せられたのは、何か明確なわけがあるんだ。……それも、重大な。
「……ヤバい話だってことには間違いはないよな」
「知ってるとか知らないとか……言ってたね」
カイが眉を顰める。ヒゴが腕組みしたまま俺を見た。
「お前、何か隠してるの?」
「は?俺?何で?」
「1番に名指しされたのはお前だろ。俺とカイはついでって感じだった」
うんうんっとカイも頷く。あら、何かやだなー。俺のせいにされてるみたーい。
「おーれーは。何も知りましぇん」
「何なんだ一体。口封じとかなんとか」
「沈めるとか言ってたぞ」
沈められるのはやっぱり良くない。沈んだが最後、浮かんで来られないに決まってる。
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